視聴覚教育時報 平成21年2月号(通巻646号)index
◆私のことば 番組の命とライフサイクル?/寺田 遊((株)シュヴァン 代表取締役社長)
◆調査研究報告 視聴覚センター・ライブラリーにおけるメディア研修や講習の状況(2)
◆第7回全国こども科学映像祭入賞作品決定
◆文部科学省 平成21年度 視聴覚教育メディア関係予算案について
◆平成19年度 「教育メディア利用推進に関する調査研究事業」報告書7 「21世紀のデジタルプロジェクト」(千葉県船橋市視聴覚センター)前編
◆えすけーぷ
私達の会社では、番組をライブラリーで保存・公開する際や、DVD化、CS・CATV提供やインターネット配信時の、著作権等処理実務を業務として行っています。
平成元年の創業以来、二次利用処理が多いのですが、最近、番組やDVDなど制作同時並行処理や、クリップなど新しいコンテンツのご依頼も増えています。
メディアが増えた分、流通で都度発生するコストはおさえたいところですが、最初から全ての権利を取るのはまだ難しいのが現状です。番組関係者の権利や思いを含む、番組の命を守りながら、いかにコストをおさえて広めるのか?実務上は相反することが多いのです。
テレビ番組を私達は「権利の束」と呼びます。制作した局だけでなく、原作・脚本・音楽・俳優・歌手のほか、番組で使用する絵画や写真、取材協力者等には異なる権利があるからです。著作権法だけではなく、肖像、プライバシー、個人情報などが関係する上、媒体により業界ルールも異なります。
たとえばドラマをDVD化する場合、お父さんが居間で野球中継を見る場面で、テレビ画面が映り込んでいたら。それが実際の映像で、かつ文脈上カットできない場合、その部分の二次使用は、原則処理が必要です。映像の権利を持つTV局や、野球連盟、球場、球団、有名選手であれば個人事務所などから、あらためて承諾を得る必要があります。
また戦争もので100人出演者のうち、99人OKでも1人NOなら、番組丸ごとの二次利用はできません。かといってその編集の是非は、制作意図や媒体でケースバイケースです。
このように二次利用は放送時の約束に含まれていないことが多く、特に昔はネット配信など想定されていませんでした。一方で、番組が再び日の目を見るようライフサイクルを長くするには、処理コスト効率化を目指すDRM(デジタル著作権管理)も必要です。
著作権などを守るための処理と、DRMのしくみは、実務的にも相反しています。そのバランスが大変難しいが必要とされていると、実務で日々実感し模索しています。
前号では、視聴覚センター・ライブラリーにおける研修及び講習の実施状況の概要をお知らせしましたが、本号では、そのメディア研修の実施状況についてスポットを当ててみました。
視聴覚センター・ライブラリーの持つ機能のひとつに学習機会の提供として、研修や講習事業の実施があります。
しかし、視聴覚センターはともかく、組織的にもそう強くない視聴覚ライブラリーでは、このメディアに関する研修や講習にどのように取り組んでいるのか、その内容と傾向を取り上げてみました。
この調査では、全国でおよそ700余あるセンター・ライブラリーから、241施設を無作為で抽出して調査を実施しました。
調査の一番の目的は、メディアに関する研修や講習をどのくらい実施しているのか、実施しているならば、どのような内容で行っているのか把握することにあります(表1)。
さらに、そこで実施した研修や講習修了者の活用に関しても調査を行いましたが今回は紙面の関係で省略させていただき、詳しい資料は全視連ホームページからダウンロードしてみて頂ければと思います。
URL: http://www.zenshi.jp/research/2007/report073.pdf
メディア研修や講習を実施しているかどうかを尋ねたところ、約7割、68.9%の施設から実施しているとの回答が得られ、それを地域別に見ると表2のようになっています。
メディア研修や講習の内容等を問わず、全体的な傾向を見ると、関東地方が85.3%と実施率が高く東北・中部がこれに続いているのに対し、近畿・中四国・九州地方がそれぞれ47.4%、52.2%、56.3%とおよそ半数近くに止まっています。
ごく簡単に言えば、東に高く、西に低いという、以前から言われてきた通説がそのまま当てはまるような結果となっています。
次に、実施しているメディア研修事業の内容はどのようになっているか、調査を行ってみた結果が次の表3です。
ここで、明らかにしておく必要があることは、事業の内容ですが、一応設定項目について次のように例示説明を行いました。
・デジカメ : デジタルカメラの操作や撮影技術、画像処理等を中心とした研修
・ビデオ : ビデオカメラの操作や撮影技術、編集等を中心とした研修
・16ミリ : 16ミリ映写機の操作や映写会の運営方法等を中心とした研修
・総合(市民) : 一般市民を対象とした視聴覚教育全般にわたる研修
・総合(教育) : 学校教育・社会教育関係者を対象とした視聴覚教育全般にわたる研修
・指導者養成 : 学校教育・社会教育における指導者の養成を目的とした研修など
技術操作を中心とした研修及び講座と、対象と内容を含めた研修・講座とを設問してみました。
これを見ると、全437事業のうち、「16ミリ」「パソコン」「総合(教育)」「ビデオ」で、全体の約4分の3を占めていることがわかります。
事業全体を「メディア」という点から見ると、ビデオテープはもとより、DVDなど映像関係の新しいメディアが著しく進展する中、「16ミリフィルム」が依然として大きな位置を占めていることがうかがえます。
これには、16ミリ関係のライブラリーを利用するための資格制度が導入されてきた経緯も関わっていると思われます。
伝統的ともいえる16ミリに対し、パソコンとビデオ関係が大きく台頭してきている、というのがメディアから見た事業の概観ではないかと考えます。
一方、「教育関係者対象の研修」が分野別の第2位に位置していることから、視聴覚センター・ライブラリーの研修・講習事業が教育関係者の研修の場として大きな役割を担っていることを読み取ることができるように思います。
それでは、それらメディア研修や講習修了者の方々を、視聴覚センター・ライブラリーの行うメディア関係の事業や、地域のメディア関係活動にどのように活用しているのだろうかという成果の活用という問題が浮かび上がってきます。
詳細については触れられませんが、表4のような結果が出てきています。
このことは、今後のメディア研修や講習を修了された方々の活用つまり人材活用という視点からすると課題が残されているように思われます。
子どもたちの科学への関心を喚起することを目的とし、カメラの目を通して科学の楽しさ、素晴らしさを理解させて、子どもたちの ”科学する心
“を育成することを目的に、標記映像祭が(財)日本視聴覚教育協会他の主催で開催されました。 応募作品73作品(小学生部門33作品・中学生部門40作品)のうち、以下のように入賞作品を決定しました。
●文部科学大臣賞(最優秀作 品賞)
小学生部門
「九頭竜川のサクラマスよ、永遠に。」福井県永平寺町御陵小学校上田学級
中学生部門
「古代森の生きた化石」内田智文(愛知県岡崎市立東海中学校)
●優秀作品賞
小学生部門
「ミミズを探ろう」愛知県岡崎市立竜美丘小学校科学部
「おっぺ川の小さな生き物たち」町田瑠莉華(埼玉県越生町立越生小学校)・川田猛男(祖父)
「アサギマダラ」浅野由紀(静岡県浜松市立追分小学校)・浅野鉄也(祖父)
中学生部門
「トンボ」兵庫県姫路市立菅野中学校生物・理科研究班トンボグループ
「よみがえる矢作川と三河湾―福中生の挑戦―」愛知県岡崎市立福岡中学校パソコン部
「玉子スープ物語」東京都板橋区立志村第二中学校総合科学部
●佳作
小学生部門
「まきつくかな?アサガオのつる」杉山杏那(愛知県岡崎市立六名小学校)・杉山康子(母)
「ムササビのクルルのひみつ」愛知県岡崎市立生平小学校6年1組
「光合成によるO2の発生量」津坂啓太(愛知県岡崎市立井田小学校)・津坂明宏(父)
中学生部門
「冬の気象現象 川霧」北海道旭川市立聖園中学校コンピュータ部
「なぜ?地球温暖化 どうする?私たち」福岡市立内浜中学校選択理科グループ
なお、科学ビデオ制作の努力に対して、愛知県岡崎市立井田小学校に奨励賞が贈呈されました。
参考:全国こども科学映像祭ホームページへジャンプ
文部科学省生涯学習政策局 参事官(学習情報政策担当)付 参事官補佐 江崎 俊光
平成21年度の予算は、「経済財政改革の基本方針2008」を踏まえ、引き続き、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」及び「経済財政改革の基本方針2007」に則った削減を行うため、歳出全般にわたる見直しを行い、真に必要なニーズにこたえるための財源の重点配分を行うこととされた。
文部科学省所管一般会計予算案総額は、対前年度0.1%増の5兆2、817億円。
参事官(学習情報政策担当)における21年度予算案の内容は、以下のとおり。
@「デジタルテレビ等を活用した先端的教育・学習に関する調査研究」(継続)
地上デジタルテレビ放送の普及・活用の促進を図るため、地上デジタルテレビ放送の特長を生かした番組活用に関する調査研究やモデル事業等を行うとともに、「地上デジタル放送への移行完了のためのアクションプラン」に対応するため、学校等のデジタル化改修状況等の調査を行う。
A「メディアを通じた生涯学 習コンテンツ普及事業」
(継続)
生涯学習コンテンツを普及し、質の向上を図り、情報通信技術の進展・普及に対応するためのコンテンツ(テレビ番組等)の制作・配信等を支援する。
B「教育用コンテンツ活用・奨励事業」(継続)
教育上価値が高く、学校教育又は社会教育に利用されることが適当と認められる教育用コンテンツを選定し、その普及・促進を図るとともに、インターネットを有効・総合的に活用し、教育の質の向上に資する優れた実践事例について顕彰を行う。
C「情報リテラシー指導者養成事業」(継続)
都道府県・市町村教育委員会の社会教育主事等を対象とし、情報リテラシーの育成に必要な専門的知識と技術を習得させる研修会を実施することによって、各地域における情報リテラシー教育の推進を図る。
D「学校教育情報化推進総合プラン」(継続)
IT新改革戦略に掲げられた目標の達成に向け、昨年度に引き続き、教育の情報化の先導的な取組の促進を図る実践的な調査研究等を行うほか、情報モラル専門員を地域に派遣したり、指導主事等を対象とした情報モラル教育の研修を実施する「学校における情報モラル等教育の推進事業」を新たに実施し、教育の情報化の更なる推進を図る。
E「学校等の地上デジタルテレビの整備に関するアンテナ等工事費」(新規)
平成23年7月のテレビ放送の地上デジタル放送の完全移行に対応するため、公立学校施設整備費(安全・安心な学校づくり交付金)の中で、公立の小・中学校、特別支援学校に対し、アンテナ等工事費に必要な経費の2分の1を補助する。また、地方財政措置としてアンテナ等工事と一体的に整備するデジタルテレビ、デジタルチューナーの購入費を、地方債にて措置(充当率75%、元利償還金の地方交付税算入率30%)したところである。なお、上記補助対象とならない公立高等学校等についても、アンテナ等工事費及び工事と一体的に整備するデジタルテレビ、デジタルチューナーの購入費が、同様に地方債にて措置(充当率75%、元利償還金の地方交付税算入率30%)したところである。
◆事例調査研究委員のコメント
本事業は、明治から昭和の船橋市に残る貴重な映像や写真を「貴重な文化遺産」と位置付け、デジタル化し後世に引き継ぐアーカイブ事業である。
特に、センターが記録写真を多数所持する市民を対象に写真展を企画し、著作権等の使用については市に寄贈してもらう「等価交換」方式を採用したこと、高齢者福祉施設などで企画展やビデオ鑑賞が楽しめる「デジタル福祉映像サービス」が新たな事業としてスタートしたことが注目すべきところである。
最後に、「心の豊かさを求める」事業の方向性を決して見失ってはならないと結んでいるライブラリー職員の地元への愛着が伝わってくる報告である。
(全視連専門委員・丹治良行) |
表題 21世紀のデジタルプロジェクト
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船橋市視聴覚センター |
「21世紀のデジタルプロジェクト事業」の経費 |
370、000円 |
1. 21世紀のデジタルプロジェクト
船橋市視聴覚センターでは、平成12年度(2000年)から市内に残る映像や写真を貴重な文化遺産と位置付け、21世紀に引き継ぐアーカイブ事業をスタートさせた。
この事業の名称を「21世紀に伝える映像プロジェクト」とし、20世紀中に撮影された写真や映像フィルムをデジタル化する作業を始めた。また、同時に市民に公開し、広報をはじめ新聞やテレビを通し広く報道する中で資料提供を呼びかけた。
その第一弾は、平成12年5月23日から始めた「磯崎孝雄 昭和初期ふなばしのスケッチ」展であった。故 磯崎孝雄氏が昭和初期の船橋の庶民生活を撮影した9.5ミリの映画フィルムをビデオに変換し編集した。また、フィルムをスチールカメラで複写し、デジタルプリントで展示した。この企画展はNHKをはじめ各報道機関が報じ、アナログとデジタルの融合から新たな文化事業を創出するものとして、その重要性が「月刊
晨 Ashita 2000年8月号」(ぎょうせい)で全国に報じられた。このことにより、その後の事業運営に自信を深めたばかりか、市役所内や市民に対して大きなアピールとなった。
特に船橋市は歴史ある漁師町・宿場町・農村部から成り立ち、その移り変わりは激しかった。その様子を撮り続けてきた写真家もいた。だが、世に発表する機会もなく資料は書棚や押入の奥に埋もれていた。その撮影者の高齢化も視野に入れ事業を展開した。
まとまった記録写真を所持している人を対象に写真展を企画し、費用については事業経費で賄う。その後の写真の著作権等の使用については市に寄贈してもらう。この「等価交換」方式を採用した結果、申し出や紹介者からの協力を得てデータの蓄積は一気に増えた。
ミレニアムと新世紀の到来期にはコンピュータ二千年問題で世界が揺れた。だが、デジタル技術は飛躍的に進歩し、画像を取り込むスキャナやプリンター機能の向上は事業を進める上で順風となり作業が進んだ。さらに、画像処理ソフトの充実により劣化したネガや写真の修正作業も容易になった。
市民から提供のあった写真をもとに「世紀越え」の事業を2000年の12月から1月に開催した。市役所一階ロビーは、明治・大正・昭和の時代を振り返り懐かしむ市民で賑わった。
この企画展を境に「21世紀に伝える映像プロジェクト」は、「21世紀のデジタルプロジェクト」と改称し市民協同の長期継続型事業とし8年続いている。また、この間収集した映像フィルムや写真は1万点を超えた(平成20年2月)。また、企画展は17回開催し、来観者数は17万人に達した。
(表1)
(表をクリックすると大きな画像で確認できます。)
2. デジタル化作業の実際
このプロジェクト事業による資料のデジタル化は、「デジタル技術」と「著作権」の二つの枠組みからなる。
(1) デジタル技術
このプロジェクト事業がスタートして以降、市民や公共機関などから寄贈を受けた写真・映像のデジタル化は、技術革新が急テンポで進む中で行なわれてきた。5年間、その時点でなるべく高い精度でのデジタル化を心がけている。
また、古い写真だけではなく現在の記録についても、船橋市の姿を後世に残すため大切な仕事である。幸い現在ではデジタルカメラの普及により、デジタルデータでの保存が非常に楽に出来るようになった。
デジタル化したデータは必ず複数の保存メディアにバックアップする体制をとり、消失の危険を回避している。
なお、平成20年1月末現在での主な機材は以下のとおりである。
@映像処理用コンピュータ
AA3対応フラットベッドスキャナー
B35mm対応フィルムスキャナー
CA2ノビサイズ対応インクジェットプリンター
DA1ノビサイズ対応インクジェットプリンター
(2) 著作権
これには特段の注意を払わねばならない。市民からの寄贈資料は後々法的な問題が起こらないよう、寄贈書にて処理し永久保存文書としている。また、デジタル資料の貸出や刊行物での使用についても慎重な運用を行っている。
〈次号へ続く〉
◆一昨年、当時の専門委員の方々のご協力の下、教育メディア担当者ハンドブックを作成し、全視連HPにアップしました
( http://www.zenshi.jp/hb/index.html
参照)
視聴覚ライブラリー担当者の人気は短く、担当者が変わるたびに様々な疑問が蒸し返されるのが実情です。
そこで、次年度は担当者ハンドブックを改訂し、直接、新担当者には冊子として配布する方向で検討を進めております。
◆著作権問題についての権利者団体との協議も、現在進めている東北地区での調査結果を待って再開します。
◆自作映像教材等の複製や配信をめぐり肖像権やプライバシー等問題まで含み、映像制作や利用をめぐる権利問題も複雑化しています。
◆ブログ全視連も時折何かの折の話題に取り上げられるようになってきました。
ブログ炎上とならないように頑張ります。(M)
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